このデジタル資料は、科研費によって制作された研究資産として、社会に広く活用されるよう、研究期間の終了した2021年春をもって、沖縄県立芸術大学芸術文化研究所の久万田研究室にて、アーカイブとしての運用を開始しました。
 また、このデジタル資料は、元の録音を制作した東京藝術大学民族音楽学研究室(植村研究室)、さらに、東京音楽大学付属民族音楽研究所(金城研究室)にも複製を備え、来所者に公開しています。

目次

Ⅰ データベースの沿革
 (1) 原資料について
 (2) データベース
 (3) アーカイブ
Ⅱ 利用の方法

I データベースの沿革

(1) 原録音について

 「沖縄民謡調査録音データベース」の元となった録音は、日本の民族音楽学研究の開拓者である小泉文夫(1927~1983)が、1970~80年代に東京藝術大学のゼミ学生たちを率いて、共同調査の手法で沖縄・奄美各地の村々を調査して得られたカセットテープ1300巻余りです。
 東京藝術大学楽理科の教員であった小泉文夫は、1960年代に、主宰するゼミの学生たちとともに、共同調査の手法による日本各地の民俗音楽調査を展開していましたが、1972年に沖縄が日本復帰すると、沖縄音楽に関する総合的な調査・研究の必要性を唱えて、科研費を取得するなどして悉皆的な沖縄民謡調査を開始しました。
 小泉文夫の率いるゼミは、1973年度に宮古諸島と国頭村を調査したことを皮切りに、翌74年度に八重山諸島を調査しました。その後、78年度に再度、八重山諸島の調査を実施し、81年度にはNHKと提携して奄美諸島を調査し、その後、沖縄諸島各地にも調査を拡げていきました。
 これにより収集された録音は、当時の90分カセットテープ(片面45分)で1300巻余りにのぼります。その録音は、歴代のゼミ学生たちによって採譜され、一部がNHKから『日本民謡大観(沖縄・奄美)』全4巻として刊行されましたが、それらと併せて、既刊行物に反映できなかった曲やインタビューの情報も、この録音には大量に残されています。
 小泉の構想は、これら大量の曲数の録音と採譜をもとに、沖縄音楽の理論的研究を飛躍的に発展させることでしたが、同書の刊行準備中の1983年に急逝し、録音資料はそのまま東京藝術大学の民族音楽学講座の研究室に眠ることになりました。

(2) データベースについて

 小泉ゼミのメンバーであった金城厚と久万田晋は、病床の小泉からこの録音の整理を託されていましたが、ともに沖縄県立芸術大学の教員となってのち、20世紀末から急速に進展したデジタル機器の力を借りて録音をデジタル化することを企画しました。
 金城と久万田は2008年、東京藝術大学楽理科と協議して覚え書きを取り交わし、沖縄県立芸術大学附属研究所に「沖縄民謡調査録音」の録音テープと録画テープ、フィールドメモ一式を借り受けるとともに、科研費を取得して、デジタル化の作業に取り組みました。その後、数次にわたる科研費取得を繰り返しながら、デジタル化作業やデータベース構築方法の試行錯誤、その公開や利活用のあり方などの研究を重ねて今日に至りました。

(3) アーカイブについて

 このアーカイブは、90分カセットテープ1330巻の録音をデジタル化したサウンド・ファイル(.wav)、20分のモノクロ・ビデオテープ30本をデジタル化した画像ファイルを基本とし、これに付随する手書きメモ類の画像ファイル(.jpg)、およびこれらのメタデータを整理したエクセル資料のファイルから成ります。

Ⅱ 利用の方法と範囲

  1. このホームページでは、エクセル資料を元にしたテキストデータ(目録)を検索できるようになっており、どなたでも利用できます。
  2. 資料の音源・映像ファイルについては、「来学利用」となっています。「利用申請」をお送りいただきますと、沖縄県立芸術大学芸術文化研究所にて、音源・映像・画像を試聴、閲覧することができます。
    なお、東京藝術大学楽理科、東京音楽大学付属民族音楽研究所でも、同じ音源・映像・画像を試聴、閲覧することができます。
  3. 音源・映像・画像の利用希望の方は、利用申請フォームをお送りください。来学にあたっては、事前に担当者とご相談ください

 このアーカイブでは、カセットテープごとに記された表題と地域名、年代によるカセットの検索が可能です。

Ⅲ 附言

 この録音は、1970年代の沖縄の人々の歌声や伝承生活についての語りが生の声で残されており、「声のタイムカプセル」でもあります。ためらいがちに録音に応じてくださった人々の思いは、おそらく、この歌声が沖縄音楽研究の前進に役立てられ、沖縄の次の世代がこれらの歌をまた歌い継いでほしい、という思いでしょう。そして、この録音制作を指導した小泉文夫の思いも、長年その整理に努力を傾注してきた私どもの思いも同様です。
 とりわけ、録音が為された地元の多くの方々がこれら先人の歌声に耳を傾け、これを歌い継いでいく手がかりになることを切望して、この資料を公開していきたいと考えています。

2021年11月1日

制作者:沖縄県立芸術大学 芸術文化研究所 久万田 晋
    東京音楽大学 付属民族音楽研究所 金城 厚

謝辞:このアーカイブの制作には、2009年度以降、数次にわたる科学研究費の助成金が充てられた。記して感謝申し上げる。